ブラムトー、後方一気で仏二冠!

6月の第1日曜日、当欄の話題は全仏オープンじゃなくて仏ダービーです。6月4日の日曜日、シャンティー競馬場は仏ダービーを挟んで5鞍のG戦が行われる競馬の祭典。凱旋門賞の週末に次ぐG戦オンパレードですが、やはりダービーから取り上げていきましょう。

フランスの場合は、ダービーと言っても距離が2100メートルに短縮されて久しい時が経ちました。クリストフ・ルメール騎手が語っていたように、フランスではディアーヌ賞(仏オークス)の方が“勝ちたい”レースとのこと。
今年のシャンティーは good to soft 、ジョッケ=クラブ賞(仏ダービー) Prix du Jockey Club (GⅠ、3歳牡牝、2100メートル)は12頭が揃い、枠順決定の記事でも紹介したように、仏2000ギニーを鮮やかに追い込んだブラムトー Bramtot が17対10の1番人気。予想された通り、グレフュール賞(GⅡ)を含めて今期3連勝のレコレトス Recoletos が41対10の2番人気で続きます。

スタートが良かったのは11番人気(52対1)のビー・マイ・シェリフ Be My Sheriff でしたが、スタートして間もなく3頭を遠征させてきたオブライエン厩舎の10番人気(48対1)タージ・マハール Taj Mahal が替わっての逃げ。人気のブラムトーは出遅れ気味のスタートから最後方を進み、ギニー同様末脚に賭ける構え。
英ダービーのダグラス・マッカーサーと同様タージ・マハールが直線半ばまで先頭で粘りましたが、中団の7番手から抜けた4番人気(74対10)のヴァルドガイスト Waldgeist 、3番手を追走していたレコレトスが伸びて2頭の勝負と思われた瞬間、残り1ハロンでは未だ8番手で追っていたブラムトーが外から一気の末脚を爆発させると、食い下がるヴァルドガイストを短頭差差し切って人気に応えるとともに、仏クラシック二冠を達成しました。ゴール前の大逆転はエプサムと同じでしたが、違っていたのは本命馬の強襲だったこと。1馬身差でレコレトスが3着に続き、更に半馬身差でタージ・マハールが粘っての4着。
オブライエン厩舎は5着ウォー・ディクリー War Decree (148対10の7番人気、ムーア騎乗)、6着オーダーオブザガーター Orderofthegarter (208対10の8番人気)と続き、デットーリ騎乗で3番人気だったハッガス厩舎のリヴェット Rivet は8着に終わってます。

ジャン=クロード・ルジェ厩舎、クリスチャン・デムーロ騎乗のブラムトーは、2歳の終戦から4連勝。既にプロフィールで紹介したように日本ダービー馬エイシンフラッシュを近親に持つ長距離ファミリーで、決して大差では勝たないプロフェッショナル。2009年のル・アーヴる Le Havre 、去年のアルマンザー Almanzor に続く3度目の仏ダービー制覇となるルジェ師は、これまで調教した中でも最強の1頭と断言しています。デムーロ騎手は仏ダービー初制覇。オーナーのアル・シャカブも初の仏ダービーでした。
ブラムトーは愛ダービーで英ダービー馬と対決、という道は選ばず、目標が凱旋門賞になることは間違いないでしょう。ダービー制覇で凱旋門賞のオッズは、8対1から10対1程度に上がっています。
一方、2着のヴァルドガイストはグレフュール賞に続き連続2着。アイルランド・ダービーで最後のダービー・チャンスに挑むことが言明されました。そして秋は、もちろん凱旋門賞。

このあとはダービー前後に行われたG戦。先ずダービー前に行われたロヨーモン賞 Prix de Royaumont (GⅢ、3歳牝、2400メートル)は3歳長距離牝馬による一戦で、8頭立て。このレースのトライアル的性格のリステッド戦(ド・ラ・セーヌ賞、2200メートル)の1着から4着までが揃い、勝ったムサワー Musawaah が4対5の1番人気に支持されていました。
そのムサワーが主導権を取って逃げ切る作戦に出ましたが、3番手の外を進んだ2番人気(63対10)のカイトサーフ Kitesurf が抜け、後方から追い込む5番人気(104対10)のベーブ・ダムール Bebe d’Amour に1馬身4分の1差を付けて優勝。6番人気(13対1)のレディー・パナム Lady Paname が1馬身4分の3差で3着に入り、本命ムサワーは後半力尽きて7着敗退。

勝ったカイトサーフは上記ド・ラ・セーヌ賞の2着馬で、アンドレ・ファーブル厩舎、ミケール・バルザロナ騎乗、オーナーはゴドルフィン。3歳になってデビューした馬で、コンピエーニュの初戦2000メートルは3着。2戦目もコンピエーニュで、2400メートルの未勝利戦に勝って臨んだのが前走シャンティーのリステッド戦でした。目標はもちろん秋のヴェルメイユ賞(GⅠ)。

ダービー前のもう一鞍は、仏1000ギニーと同じ距離で行われる3歳牝馬によるサンドリンガム賞 Prix de Sandringham (GⅡ、3歳牝、1600メートル)。5頭立て、仏1000ギニー参戦組からは2頭が出走し、3着と上位だったユーリスティック Heuristique が6対5の1番人気。
4番人気(97対10)のスピード・アス Speed As が逃げ、ユーリスティックは4番手追走。しかし2番手を進んだ最低人気(228対10)のラ・サルダーヌ La Sardane が前を捉えると、3番手から追い込む2番人気(23対10)のゴールド・ラック Gold Luck に1馬身差を付ける番狂わせとなりました。最後方から伸びた3番人気(12対5)で仏1000ギニーは11着だったセンガ Senga が首差の3着に入り、ユーリスティックは5着で入線。最低人気の馬が勝ち、1番人気が最下位という大逆転です。

勝ったラ・サルダーヌは、ブルーノ・ド・モンツェイ厩舎、フランク・ブロンデルが騎乗していましたが、実はこれがフランスでの最終戦。レース前にアメリカのオーナーに買われ、この後はアメリカに転厩することが決まっています。デル・マー競馬場でアメリカ・デビューし、デル・マー・オークスを狙うのだそうな。

そしてダービー後に行われたG戦も2鞍。シャンティー大賞典 Grand Prix de Chantilly (GⅡ、4歳上、2400メートル)はGⅠ馬、何れはGⅠを目指す5頭が集い、ここはGⅠ馬の実績から5歳馬シルヴァーウェイヴ Silverwave がイーヴンの1番人気。
レースは2番人気(13対5)タリスマニック Talismanic の逃げで始まりましたが、3ハロン地点からは2番手に付けていた5番人気(83対10)のアピロバー Apilobar が替わっての逃げ、タリスマニックは2番手に控えます。終始最後方で待機していたシルヴァーウェイヴでしたが、直線で外に出すと、2番手から再び先頭を奪ったタリスマニックを外から首差捉えて人気に応えました。逃げたアピロバーが粘って4分の3馬身差の3着。3番人気(53対10)に推された去年のヴェルメイユ賞勝馬レフト・ハンド Left Hand は4番手の儘4着と、未だ復調の兆しは見えません。

パスカル・ベイリー厩舎、ピエール=シャルル・ブードー騎乗のシルヴァーウェイヴは、去年のサン=クルー大賞典(GⅠ)の勝馬で、今期初戦のガネー賞(GⅠ)は3着。次走に予定されているサン=クルー大賞典で連覇を掛け、クロース・オブ・スターズ Cloth of Stars を破ってガネー賞の雪辱を目指します。

ダービー・デイの最後は、短距離のグロ=シェーヌ賞 Prix du Gros-Chene (GⅡ、3歳上、1000メートル)。当初11頭の登録があり、過去3年のこのレースの勝馬が揃いましたが、2014年の勝馬ランガリ Rangali が落鉄してスタートが大幅遅れ。結局ランガリの蹄鉄打ち換えは失敗し、除外となって10頭がスタートを切ります。7対5の1番人気に支持されたのは、前走テクサニータ賞(GⅢ)に勝った3歳馬のアラジン Aladdine 。前日のメゾン=ラフィットの短距離G戦でも3歳馬が勝ったことも影響していたのでしょう。
9番人気(43対1)のデアリング・マッチ Daring Match が飛び出して先頭を切りましたが、後方に控えていた3番人気(18対5)のフィンスバリー・スクエア Finsbury Square が残り1ハロンで先頭。ここに追い込んだのが、最後方で機を窺っていた2015年の勝馬で4番人気(7対1)のムスミール Muthmir 。フィンスバリー・スクエアを1馬身差し切って、2度目の優勝を果たしました。中団から伸びた7番人気(28対1)のプリュクマヴィー Plusquemavie が1馬身4分の1差で3着に入り、去年の勝馬で2番人気(16対5)に支持されたソン・セシオ Son Cesio は5着、人気のアラジンは先行するもバテて6着に終わっています。

英国のウイリアム・ハッガス厩舎、ジム・クロウリー騎乗のムスミールは、一昨年のグロ=シェーヌ賞に勝ったあと、ロイヤル・アスコットのキングズ・スタンドで3着。ジュライ・カップ7着を経て、グッドウッドのキング・ジョージ・ステークス(GⅡ)も優勝し、10月のアベイ・ド・ロンシャンでは3着とスプリントGⅠ路線の常連でした。
しかし去年は不振で、6戦して未勝利。7歳になった今期は、いきなりバース競馬場の一般戦に勝って8連敗に終止符を打ち、前走ニューマーケットのパレス・ハウス・ステークス(GⅢ)は再び15頭立ての12着と大敗。本人に走る気力が起こるかがポイントのせん馬ですが、今年もロイヤル・アスコットのキングズ・スタンド・ステークスでGⅠ奪取に挑戦します。

ところでハッガス師は、往年の名騎手レスター・ピゴットの娘婿。この日のシャンティーでも、前日のエプサムでも白髪のピゴット翁とのツー・ショットに収まっていました。老いたりとは言え、ピゴットの元気そうな姿を見て嬉しく思うダービー・デイではあります。

 

 

Pocket
LINEで送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください